消えたフランチャイズ
新しい店がどんどん産まれて来る中、消えて行ったフランチャイズ店が存在します。
普段は気にすることがないものの、ふとした拍子に思い出す店ってありませんか?私にとっては、「びっくりラーメン」です。ある日、近所の人が「180円のラーメン屋が出来た!」と教えてくれて、半信半疑で店の前まで見に行きました。看板に「びっくりラーメン180円」と本当に書いてあった時の衝撃は今でもはっきりと覚えています。
『びっくりラーメン一番(びっくりラーメンいちばん)は、かつて存在した日本の外食チェーンストアの1つ。2007年8月に吉野家ホールディングスに買収され完全子会社の株式会社アール・ワンとなった。同社は2009年8月に清算されたため、現存しない。』(ウィキペディアより)
1997年に大阪市福島区に1号店を出店。一杯180円(税込み189円)でラーメンが食べられるという「びっくり価格」で大きな話題になりました。あまりにも安いため、本当にラーメンなのか?食べられる味なのか?などと、確認のために一度は訪れた人が多かったと思います。謎の深夜価格(+100円)も話題になりました。しかし、数年後に料金を380円へと転換し、「びっくり」感が減ってしまい、そのうちに見なくなりました。先ほどご紹介した通り、2007年に牛丼チェーンの吉野家ディー・アンド・シーの子会社に事業譲渡し、吉野家がラーメンに進出と話題になりました。しかし、その後も採算が取れず、結局2009年に完全閉店となったのでした。とは言え、経営が吉野家に移ってからは、屋号が「麺家 五条弁慶」に変ったため、文字通りの「びっくりラーメン」は、開業から10年後の2007年に消えていたのです。
びっくりラーメン一番の社長であった加藤博一さんは、22歳からさまざまな商売を経験された起業家です。67歳ではじめた「びっくりラーメン」が大当たりし、売上げ58億円、全国に約200店のフランチャイズチェーンにまで成長しました。そんなベテラン経営者が育てたフランチャイズチェーンが、創業から10年後に消えてしまった理由は、何だったのでしょうか。
格安ラーメンチェーンといえば、180円のびっくりラーメン一番の他に、290円の幸楽苑、390円の日高屋があります。これらの3つのチェーンは、ラーメンという商材は共通ですが、店づくりは大きく異なっています。
「びっくりラーメン」の180円は、1997年という不況のどん底時代に、価格の安さを売りにする「不況型ビジネス」の一つとして大成功を収めました。しかし、それが一時的にせよ好景気に向かった10年後、時代の空気に合わなくなりました。そんな中、客単価の上昇に成功した幸楽苑は郊外へと店舗を進出します。道路沿いの郊外店の出店には駐車場が必要なため、広い用地取得を進めています。また、主力商品だった290円のラーメンは、今や520円の醤油ラーメンに生まれ変わっています。
これに対し、日高屋はサラリーマンのチョイ飲み需要を取り込む戦略を進めています。日高屋では、大手ファストフードチェーン店の出店調査を参考に、そんな大手チェーン店舖の近隣に出店しています。そして、390円のラーメンで儲けるというよりも、ラーメン+餃子+ビールで千円以下というお得感を創出し、全体の利益率を上げているのです。
幸楽苑と日高屋の出店戦略の違いは、一口に良し悪しを判断できるものではありません。しかし、びっくりラーメン一番が10年で倒産してしまった様に、大きく育ったフランチャイズチェーン店であっても、景気などの経済情勢や経営戦略によって、数年後はどうなるかわからないのが現実です。この二つのチェーンの今後に注目したいと思います。
同じ商材であっても、経営戦略はさまざまです。もしも自分自身がフランチャイズに加盟するとしたらどこを選ぶのか。消えたフランチャイズチェーンの記憶は、そんな判断に大切な材料となるに違いありません。