FCをもっと知ろう!

夜のお土産市場で勝負

子どもの頃、お父さんが夜遅く帰ってきた時は、いつも寿司折を下げて来た想い出があります。持つところがくるっと丸まっていて、お父さんが人差し指で引っ掛けて千鳥足で…というと、それは昭和のドラマの話ですね!ともかく、私の記憶のお土産は寿司折でした。今ではどうやら流行りのスイーツなどをお店が準備しておくなんてこともあるそうですが、そんな夜のお土産市場で大成功しているサンドイッチのお店をご紹介しましょう。

大阪・東心斎橋の完全会員制のバー「Bar R (バーアール)」は、お酒だけではなく、色々な美味しい食べ物が出ることで人気がありました。それは、経営者である森本さんが、バー開店を目指して修行した飲食業界での経験から、「美味しいおつまみ」が繁盛店の必須要件であることを確信していたからでした。そんなとき、店の名物メニューの一つだった「塩カツサンド」をお土産に持って帰りたいと注文するお客様が居ることに気づきました。夢だったバー経営を実現した森本さんにとって、次の目標が浮かんだ瞬間です。

「そうか、昔なら寿司が定番だった飲みのお土産に、サンドイッチも行けるかも!?」

アイデアマンの森本さんは、早速「お土産としてのサンドイッチ」に必要なものを考えました。ランチ時のサンドイッチと違い、夜のサンドイッチです。お土産として翌朝でも美味しく食べられること、持って帰るためのしっかりしたパッケージに入っていることです。幸い、「Bar R」には当初より有名デザイナによるロゴマークがあり、ほどなく黒を基調としたカッコイイデザインの箱と紙袋が仕上がりました。あとは、「塩カツサンド」と並ぶサンドイッチメニューの開発という課題が残りました。

塩カツサンドは、薄切り肉をシチリアの塩と共に重ねカツにしたものです。一枚肉を使うよりも、ミルフィーユ状の方が優しい口当たりだからです。試作品の評判などを得て、海老カツサンド、黒毛和牛ヘレカツサンドなどが出来ました。しかし、何かもっと今までにないカツが出来ないかと考えた森本さんは、サンドイッチの定番であるタマゴサンドに着目しました。「ふんわりしたオムレツをカツにして挟めないだろうか。」

こうして、今では店の看板メニューである「タマゴカツサンド」が産まれたのでした。

さて、開店してみると思わぬトラブルが生じました。ミナミで飲んでサンドイッチを持ち帰ったお客様が、別の日に大阪の北新地から注文してこられることです。

同じ大阪とは言ってもキタとミナミは少し離れているため、配達でお待たせしてしまうという問題が発生したのです。そこで、2014年に「お客様をお待たせしない」ための、姉妹店「北新地サンド」をオープンしました。それが思わぬチャンスを呼んだのでした。

2015年、大阪ローカルの深夜番組である企画が持ち上がりました。「大阪の歓楽街・北新地で“オネエ”の皆さんにオススメのグルメを教えてもらう」というものでした。これがきっかけで『北新地サンドのタマゴカツサンド』の大ファンになった浜ちゃんことダウンタウンの浜田雅功さんが、この後も何度も番組で店を訪れてくれました。「浜ちゃんが大好きなタマゴカツサンド」という言葉が拡散したお陰で、有名百貨店のパン催事にも呼ばれ、長蛇の列が続きました。いつの間にか、夜のお土産だけでなく、「有名芸能人ご用達」のサンドイッチとなったのです。

芸能人繋がりで、楽屋差し入れなどで使われるようになると、いつしか「東京にも店を出さないのか」という話が来ます。

そこで、2019年2月には「銀座サンド」をオープンしました。夜の歓楽街の名前を冠したサンドイッチ店も3店舗目。今はまだ直営店ばかりですが、フランチャイズも夢ではありません。

新しい夜のお土産として、各地でサンドイッチ専門店が見られる日も遠くないのかもしれませんね。