多様化し拡大するペット産業
コロナ禍でも売上好調なペット産業
経済産業省によると、このところペット関連産業の売上はずっと増え続けていたが、特に新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年には前年比8.2%増と大幅に増加した。
同様に家庭のペット関連支出も増加が続いていると言う。
テレワークで在宅時間が増えたことや、新型コロナの閉塞感に疲れた人々がペットに癒やしを求めたのではと考えられているが、その土台には近年の日本社会のペットへの向き合い方の大きな変化がある。
つい20年くらい前までは、数が少なくてなかなか見つけることができなかった「ペットと一緒に住めるマンション」もあちこちに増え、物件を探すのがそう困難ではなくなってきた。またペットが最期を迎えた時は人間さながらにペット葬を執り行い、ペット霊園に葬ることも今や当たり前だ。
社会情勢そのものが、「ペットは家族の一員」という大きな波に乗っているように見える。
ペットフードもプレミアムの時代
なかでも顕著に変わってきているのがペットの食事ではないだろうか。
かつてペットの食事と言えば家庭のあまりご飯に味噌汁をかけたようなものが主流だった。それがどんどん専用のペットフードを与えるようになった。
最初は毎日毎日こんなカリカリした味気のないものを食べさせるのは可愛そうなのではないかなどと思っていた飼い主たちも、今では「人間の残り物を食べさせるなんて虐待だ。塩分も多いし玉ねぎなどの食べてはいけない野菜が含まれているかもしれない」という意見に深くうなづく。
なぜならば、そのおかげで明らかにペットの病気は減り寿命が伸びたからだ。
最近ではますます栄養価や原材料の安全性にこだわったペットフードが数多く開発されているが、なかでも人気が高くなってきているのが、「ヒューマングレード」のペットフードだ。
「ヒューマングレード」はその名の通り人間でも安心して食べられる良質の材料を使って作られており、通常のペットフードに比べるとずいぶん価格も高い。
それでも我が子同然のペットには良いものを食べさせたいのが飼い主の「親心」である。
人のみならずペットの高齢化も社会問題に?
良質の食事を与えられ、ペットクリニックに定期検診に連れて行かれて、病気になれば高度な医療を受けるようになりペットの寿命は、前項でも述べたように昔に比べると格段に伸びた。
しかし寿命が伸びたのと引き換えに、ペットも高齢化し人間同様生活習慣病などの持病を持つことが珍しくなくなってきたのだ。
それにつれてペットフードも年齢や持病に合わせて機能性を持つようになりさらに種類が増えていく。さらに高齢化は人間の場合と同じくがんや認知症など疾病の多様化も引き起こす。
そんな状況の中、社会問題として考えなければならないのは、飼い主とペットの高齢化がダブルでやってくることだ。
最近では飼い主の高齢化などの事情でどうしても飼いきれなくなった老犬のための「老犬ホーム」や高齢の飼い主とペットが一緒に入居できる高齢者施設、また高齢の飼い主が亡くなったあとのペットの行き場を確保する「ペット信託」などのサービスが生まれてきている。
ペット産業は今後も「家族化」、「高齢化」、「健康志向」というトレンドのもと、どんどん拡大していく大きなマーケットなのである。