コンサルタントコラム

縮小する日本経済の中で成長する介護業界

奥野 泰弘

(株)船井総合研究所 マーケティング企画室 チーフ経営コンサルタント  奥野 泰弘

介護分野では主にリハビリ特化型半日デイサービスの新規参入・活性化を担当し、福祉分野では障害児向けの通所施設、就労移行支援、就労継続支援の 新規参入・活性化を担当している。いずれも効果を出すサービスを提供することで、利用者満足、ご家族満足を獲得し、業績向上、国家財政負担の軽減を目指す。

  • ● 30事業所のデイサービスをわずか3年間で120事業所の全国チェーンに導く。
  • ● 人口半減に向けて人口減少が高速化している地方都市で、今後も成長し続ける介護・福祉市場へ新規参入プロジェクトを三十数社サポートしている。

介護事業は介護保険法に基づいて、正確に行っていけば誰でも出来る事業というふうに捉えていただいて結構です。この介護保険法は3年おきに改正されるというのがポイントです。

介護保険と介護事業の関係

社会福祉法人から民間事業へ

介護事業はかつては、各市区町村などの地方自治体にある社会福祉法人が国の委託を受けて行っていた事業で、これが約10年前に民間に開放され、一般企業の参入がし易くなりました。

介護保険は、政府自治体の直接収入と介護保険料で50%ずつというのが財源となっています。介護保険料はサラリーマンでしたら40歳を超えると給与の中から直接徴収されます。

介護保険は誰がどうやったら利用できるのか?

では誰が利用できるかということなんですけれども、国が定めた制度の中で、「要支援者」「要介護者」という2つのランクがあるんですが、まず利用しようとすれば、その認定を受け、『介護被保険証』を取得することが必要になります。

どのように利用するかというと、国の制度に基づいた「ケアプラン」というルールがあります。国家資格であるケアマネージャーがそのケアプランを作ることができます。なので、認定を取得できた際には担当のケアマネージャーさんを決めて、ケアマネージャーさんにそのケアプランに基づいて、一番最適なプランを案内してもらい、それに沿ってご利用いただくという形になっています。

基準を満たせば誰でも参入できる

では、誰が運営できるのかということなんですが、「設置及び運営に関する基準」というものがあります。それによって建物などの設備の設置基準や人員基準が決められていますので、その基準を満たせば誰でも参入できるということになっています。

国が作っている仕組みなので少し硬い言葉が多いんですが、簡単に言うと、国が定めた基準を遵守できる業者として指定を受けて、そのルールに基づいてサービスを提供すれば、国から代金の90%が支払われるビジネスと言う事ができます。残りの1割はどうするかというと、利用者の自己負担になります。

医療的な資格や技術は必要なし

介護と医療というのはとても近い業種のように感じる方が多いんですが、実は介護と医療は完全に切り離されております。なので、介護事業に医療的な技術は必要ありません。国の制度でも、そういうふうになっています。

たとえば利用中にご利用者さんが体調を悪くされたりした時に、医療的な措置が必要じゃないかというような事を心配される方がおられるんですけれども、それは全く必要ありません。
何かあれば医療的な機関に引き継ぐところまでが業務ということになっていますので、参入障壁としては、それほど高くはないのです。

高齢化社会の急速な進行に比例して伸びる介護業界

少子高齢化による日本経済の縮小

日本国内での重要な課題は少子高齢化による日本経済の縮小です。

一番わかりやすく言うと団塊ジュニアの世代では年間出生数が200万人強だったのに対して、2013年での出生数は103万人になってます。出生数自体が半減しているということなんですね。国の予測では、この出生数100万人が2050年には50万人にまで減ると言われています。この数字を見て、国内の地域蜜着型のマーケットが相当な勢いでこれから縮小していくということを、皆さんに感じていただきたいのです。

縮小する日本経済の中でも成長する介護業界

全体的に市場は縮小しますが、その中で今後成長するマーケットが有るか無いかというと、それは“あります”という事なんですね。
弊社でよくお手伝いさせていただいているネット通販のビジネスはこれからも市場規模が伸びるというふうに言われていますし現時点では「太陽光」などエネルギー関係のビジネスも伸びると言われています。

その他に何かあるかと言うと、やはり高齢化というのが相当な勢いで進んで行きますのでシニアビジネスのマーケットや介護や医療、葬儀でなどの分野は大きく伸びていくというふうに考えています。
先ほど、「人口が減り続ける」というような話をしましたが、高齢者人口は現在の3,200万人が、2050年までに3,800万人になります。つまり2050年まで増え続けるという予測が出ているのです。

その中で介護がどれだけ伸びるのかというと、現在の介護保険の給付費総額は8兆円というふうに言われています。それが10年後の2025年には、現在65歳前後の団塊世代が75歳になり、医療と介護が必要な人口が爆発的に伸びます。そして8兆円の介護給付費が25兆円になると予測されます。そして医療は35兆円が70兆円になる見込みなので、双方を足すと2025年の段階で『95兆円の給付費負担が必要になる=マーケットが拡大する』という予測がされています。

何でもやれば儲かる時代は終わりを告げ、選択の必要な時代へ

マーケットは拡大するものの、国の財政支出自体が介護と医療の給付費負担に追いつかない状況になってきているのも事実です。これまではどちらかというと、介護をやれば何でも儲かったという時代が5年近く続きましたが、今後は、全部が全部儲かるということではなくて、どれが儲かるのか、どれをやるべきなのかという選択が必要な時代に入ってきたました。

これまでは世界的に見たときに、日本の介護保険は相当手厚い保険制度でした。しかしこのまま続けると、とてもじゃないけども間にあわないということで、たとえば訪問介護などはこのまま続けることはできない。ではどうするかというと、自分で出来ることは自分でやってもらい、介護保険で賄う部分は限定していこうという動きになります。

介護保険の今後が介護ビジネスのかたちを決める

相対的には介護保険のサービスに対する国の指針の大きな方向性が5つあります。

ひとつが、「機能訓練を中心とした自立支援型」ということですね。横文字で言いますと、リハビリということになります。
2つめはですね、「専門性を持った認知症特化型」で、国としてもなんとかサーポートしていかなければいけないというものです。
3つめがですね、「ナーシング機能型 医療と介護の一体化」で国としては強化して行きたい部分です。
4つめは「訪問看護、訪問介護の夜型」です。
最後の5つめは「サービス付き高齢者住宅」で、現状10万戸ありますがこれを60万戸に増やしていきましょうということで、現時点では建築費の1割を補助金として国が出すという流れになっています。

新規参入ならまずはデイサービス

これから参入する場合、まずは通称「介護事業所」、いわゆるデイサービスを選択するのが良いでしょう。しかし、これまで通りデイサービスだけだと、今後は介護報酬の切り下げ、もしくは自己負担比率の嵩上げが行われますので、機能訓練を中心とした自立支援訓練型、リハビリ型というのがおすすめです。

成功のポイントは『国が強化したい方向性を見定める』こと

利用者・家族・ケアマネージャーに伝えられる『強み』が必要

開業したあとの営業先はケアマネージャーのいる「居宅介護支援事業所」が一番のターゲットになります。
営業のターゲットは利用者本人とは限りません。少し認知症がある高齢者は自分でどこの施設が良いのかというのを選ぶことができないケースがあります。そういった場合は利用者に強みを伝えるのではなくて、家族に伝えなければなりません。
数多いデーサービスの中でも埋もれない、しっかりとした強みのあるサービスを提供する必要があるということです。

次に、「多店舗展開しやすいフォーマットかどうか」というのをしっかり選別してください。せっかく介護事業を起こしたらその部門を軸として成長するためにここはひとつポイントになってきます。そのためには採用がしやすい業態かどうかを確認することが大切です。
採用がしやすくて、人材育成がしやすくて、辞めないことが大切です。辞めると再度採用をしなければならず経費がかかりますし、育成がしやすいということは、サービスの均質化につながりますので、事業所としての質が高まるということになります。

前項で挙げた国の指針の方向性の5つのポイントにあった業態であるか、しっかり見極めてください。
介護報酬単価というのは、今後おそらく全体的には切り下げていく方向に向かいますが、一旦切り下げられても国が強化する方向に合ったサービスを提供しているところに対して(介護報酬の)加算が入ってくるという形になっています。
新規開業をするにあたって、先ほどの5つの中で一番取り組みやすいのは機能回復型で、この要素をどれだけ持てるかというところが、大きくポイントになって来ます。

運転資金を明示しているフランチャイズ本部を選ぼう

あとは、どういうパートナーと組むかという部分ですが、「開業資金いくら」というような表現をしているところが多い。その開業資金に「運転資金」が含まれているかどうかというのが、けっこう重要なポイントになってきます。

事業所を開業しようとすると、申請前に物件の確保、建築工事、人材の採用、「人、物、金」のすべてがそろった状態で申請をして、そこから申請が許可されるまで1~2ヶ月必要になってくるんですね。
オープンを向かえても、いきなり初月からご利用者がたくさんいるという状態は想定できないので単月の黒字化するまで、約半年ぐらいはかかるビジネスだというふうに考えるべきです。

そう考えると10ヶ月分の運転資金を確保する必要があるのですが、そのことを明示せずにビジネスモデルとして提示しているケースがよくありますので、注意して下さい。

「いつ単月黒字になるのか?」というのが大きなポイントになってくるんじゃないかと思います。

「日本の地域密着のビジネス自体は、これから衰退していくんじゃないか」という中で、成長曲線にあるビジネスには間違いありませんので、厳しい部分は出てきますがしっかり取り組んでいただければ、成長曲線に乗れるビジネスではないかと思います。