コンサルタントコラム

ファーストフードで飲食業界を勝ち抜く!

(株)船井総合研究所 フードビジネスグループ チームリーダー 三ツ井 創太郎

飲食専門のコンサルタントとして、外食チェーン店の多店舗化システム­の構築や、FC本部構築、店長研修等を実施。その他、年商1億円~3,000億円を超­える企業に対して、業績アップやオペレーション改善、幹部育成研修、海外進出支援、業­態開発支援を行う等、『超現場主義』の支援活動を行っている。

ファーストフード業界の話を始める前に、まず飲食業界全体の市場規模のお話をしましょう。

縮小する飲食業界で伸びているファーストフードとテイクアウト

経済恐慌にも災害にも負けず需要を伸ばす

飲食業界は1997年の23兆円をピークに、全体としては縮小傾向です。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災などの外的要因もあって飲食業界全体としては、市場規模は縮小はしてはいるんですが、その中にあって特にファーストフード、あとはテイクアウト業態というところは、市場が伸びているという状況です。

飲食業界のライフサイクルは『総合化』から『専門化』へ

業界全体の特性としては一時期は居酒屋業態でも総合型居酒屋やダイニング業態などが好調でした。しかし近年、総合型の業態が非常に厳しくなってきており、専門特化した業態の調子が非常に上がってきています。

ライフサイクル的に見ても、『総合化』から『専門化』の時代に入ってきています。専門化をしていく上で重要なのは、しっかりと自社の強みや差別化を打ち出すということです。最近は生産者の顔を出したり、産地の表記をしたり、そういう安心安全というところも、業界を引っ張っていくためには非常に大きなキーワードかなと思います。

伸びるファーストフード業態のキーワード

「安い」「早い」「美味い」はすでに過去の遺物

以前のファーストフードは「安い」「早い」「美味い」というのが消費者の大きなニーズになっていましたが、近年のファーストフード業態で伸びているビジネスの特徴としては、「適正価格」、「適正なスピード」、「本物感」という、3つがキーワードになっています。
なぜ、「美味い」が入っていないのかというと、もはやおいしいのは当たり前のことで、消費者のニーズとしてはわざわざ挙げることではなくなっているからです。
さて、それではこの3点にポイントを絞ってお話をさせていただきます。

ファーストフードが仕掛けたプライスライン戦略

1つめ、まず「価格」ですね。価格帯と言えば、以前から牛丼チェーンでは「300円」というプライスラインを中心に、非常に競争が激化しています。
こうした中、最近新しく出てきた新興業態であるファーストフードは、そのひとつ上の「500円」というプライスラインを中心に、大きく戦略を取って仕掛けてきました。

『スピード重視』から『適正な時間』へ

2つめが「提供のスピード」ということで、以前はとにかく速くというところが大きなポイントだったのですが、最近は「適正な時間」がポイントになってきました。

つまり、調理の時間がかかるということは当然、「店内でしっかりと調理をしていますよ」ということですね。そこをしっかりと打ち出していく。もしくは、店内調理のオペレーションを入れていくと、必然的に調理時間が長くなってくると。

しかしながら、お客様に長く待たせているという気持ちを起こさせてはいけないので、お客様の目の前で調理するという『実演性』を付加することによって、「心理的な待ち時間」を減らすというような取り組みをしている業態が、非常に多く見られるようになりました。

消費者は『本物』を求めている

3つめが「本物感」。
最近ですと、たとえば和食専門店が展開している天丼のファースト業態や、店内でしっかりと薪釜を使ってピザを焼くようなファースト業態、海鮮居酒屋業態が展開しているお茶漬けのお店や、素材に非常にこだわった高級ハンバーグなど、高付加価値のファーストフードというのが、非常に消費者の支持を得ています。

『本物感』をファーストフード業態で出していくには、現在行っている専門的なビジネスの中での社内スピンアウト的な企画・開発から、自社商品の一部分を切り取ってファーストフード化するという方法が、これから注目されていくのではないかと思っています。

注目の「高付加価値型ファーストフード業態」

安心・安全と、シズル感を演出する「実演性」

ポイントその1「実演性」
シズル感を高めるために、店内や店頭での実演調理というのが非常に重要になってきます。この実演調理は、シズル感をお客様に与えるということだけではなくて、「しっかりと店内で調理をしているよ」という安心・安全の部分の訴求というところでも、大きな効果を発揮するでしょう。

また、最終提供の段階で、ウエイターがお客様の目の前で何か仕上げを行うとか、お客様自身にソースを掛けてもらうとか、そういう「目の前のシズル感」というところも大きなポイントになってくるのではないでしょうか。

価格以上の付加価値を感じさせる「こだわりの訴求」

ポイントその2「こだわりの訴求」
ピザをしっかりとした薪の窯で焼くとか、天ぷらやトンカツなどの揚げ物を大きな銅鍋でお客様の目の前で調理するとか、ハンバーグのパテを直火で焼くとか。あと、素材を作っている生産者の顔をしっかり出すことも最近増えてきています。

それに、高級食材ですね、一般的にハイ・イメージがあるのような食材を使用するなど、業態に差別化要素というのをしっかり打ち出していくのがポイントになってきます。

つまり今までであればディナーレストラン業態で行っていたような付加価値のサービスを、ファーストフード業態でも落とし込んでいくというのが、大きなこだわり訴求のポイントになってくると思います。

付加価値を武器にして新たな「価格帯」に挑戦

ポイント3「価格帯」
牛丼チェーンに代表される300円価格帯のファーストフードチェーン。そういう大手チェーンとの競合が激しい価格帯ではなくて、先ほどお話したような実演性などにこだわった付加価値の訴求をしっかりすることで500円、それ以上の600円、700円という価格帯で荒利を獲得できるような戦略を取っていく、ということが大事です。

ファーストフードには色々な業種ありますが、それぞれにもちろん価格帯やターゲットが違います。こうした中、近年はフランチャイズを含めた業態というのが出てきました。
郊外のカツ丼チェーンさん。最近、非常に大きく市場を伸ばされていますが、そういった時流適合しているフランチャイズの業態を検討するというのも、ひとつの方法ではないかなというところですね。

自社で展開するビジネスを選ぶ際には、先ほどお話したような実演性やこだわりや適正の価格帯などを加味した上で、進出しようとしている商圏の大きさや特性、つまりターゲット、競合性、周りにどんな価格帯の競合店があるのかというところを分析した上で、投資のコストを加味して選んでいただきたいと思います。